「タフで乱暴で、優しくてナイーブで、ひたむきで感傷的で、傲慢で、率直で、冷酷で、独善的、自己中心的、押しつけがましく、情愛深く、憎々しくて、愛らしくて、いくら言葉を重ねても完全に表現することはできない」

――平井和正『狼のレクイエム 第一部』

 初めて読んだ時は、物語の流れから、これは「女性」について語っているんだと思っていたけど、今読むと、「もしかしたらこれは『自分を愛してくれる誰か』について語った言葉なんじゃないか」と思う。
 それは、物語の中では言葉の主である犬神明にひたむきな恋情を注ぐ虎4であり、当時の平井和正氏の生活においては、無数に送られてくるファンレターの主=ファンたちのことであったのではないか。